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あああ

「よし」

 

俺は家具を設置し終えた部屋を見て一息つく。

 

2009年3月下旬。

俺は大学入試に無事合格し、ついに東京へ引っ越してきた。

 

4月に入学式をひかえ、かなり気持ちがソワソワしている。

 

不安がかなり大きかったが「やっと山梨とかいう陰湿な土地から出られる……」という開放感の方が勝っていた。

東京の大学を受験したのも、一人暮らしがしたかったからだ。

 

もし、実家から通える大学に入学してしていたら……

 

想像もしたくない話である。

 

「さて」

 

俺は実家から持ってきたノートパソコンの電源を入れる。

 

『新しいフォルダ』

 

カチカチ

 

『01.jpg』

 

カチカチ

 

「……」

 

シュッ……シュッ……

 

ブーーーーーーーーーーーーー!!!

ブーーーーーーーーーーーーー!!!

 

「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

いきなり携帯電話が鳴り出し、下半身丸出しのまま転倒する俺。

一週間に一度かかってくるかどうかという携帯電話の着信に、気絶する寸前までビビってしまう。

 

「!?!?」

 

とりあえず気持ちを落ち着けて、着信相手の名前を確認する。

 

『早川くん』

 

久しぶりに見る名前が表示されている。

 

早川は、俺が小学生の頃から付き合いのある男友達だ。

親同士の仲が良く、たまにお互いの家に遊びに行ったりしていた。

早川の両親はペンション(民宿)をやっており、家は自宅兼宿泊施設といった感じでかなり広い。洋風の家具がたくさん置いてあり、俺の家とはまた違った趣があった。子供心に響くものではなかったが……。

 

そんなわけで、不登校が長かった俺にも分け隔てなく接してくれた、ほとんど唯一と言っていい友人だった。

 

「……」

 

といっても、高校受験の時には俺の登校日数が足りなかったため、早川は公立の進学校に、俺は私立の誰でも入れるような高校に入学することになる。

それ以来、お互いに連絡を取り合うこともなく、結局大学に入学するまで一度も話す機会もなかったのである。

 

そんな早川から連絡があって俺は内心、複雑な気分だった。

 

「(とりあえず出てみるか)」

 

俺は意を決して通話ボタンを押す。

 

「も、も、もももももももっしもし」

 

やばい。

滅多に人と話すことが無いため口がもつれてしまう。

 

「あ、○○?」

 

早川の声だった。全然変わってなかった。

 

「は、は、早川くん。ひっ久しぶりだね」

「いや、そんな緊張しなくていいから」

 

笑いながら言う早川。

 

「親から○○が東京に出るって聞いたからさ、1回電話しとこうと思って」

「そ、そうなんだ。早川くんはどこの大学なの?」

「東○大学だよ」

「は~~~ん」

 

だんだん話すのも慣れてきた。

 

「そうだ、今度○○の家に遊びに行っていい? せっかく2人とも東京で暮らすんだしさ」

「……」

 

引っ越したばかりだし見られて困るような物も置いてないし……

パソコンの中さえ見られなければ……

 

「……いいよ」

「ありがと~! じゃまた××日に遊びに行くよ」

 

ブツ

 

「ふ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 

疲れた。

人と話すのってこんな疲れるのか。

電話だと余計疲れるよな……

 

身振り手振りで気持ちを伝えられないからさ……

 

「……さてと」

 

俺はノートパソコンのスリープを解除する。

 

『12.jpg』

 

カチカチ

 

「……」

 

カチカチ

 

……シュッ……シュッ……

 

 

「お邪魔しま~す」

「は、入って入って」

 

今日は早川が遊びに来る日だ。

家族に引っ越しを手伝ってもらって以来、初めての来客である。

 

正直、俺はかなり緊張していた。

 

というのも、中学・高校時代で家に誰かを呼んだことがない。

そのため、誰かが来た時に何をすればいいのかが一切分からなかった。

 

ゲームをすればいいのか。

……いや、一人用のゲームしかない。

 

テレビでも見ればいいのか。

……そんな過ごし方ってあるのか? 久しぶりに会ったのに。

 

結局何も思いつかないまま、早川が来る日になってしまった。

 

「いや~久しぶりだなぁ。中学校以来か?」

「そ、そうだね」

 

俺と早川は1Kの部屋、こたつに入って話始めた。

まだ外は寒い。こたつ布団はかけたままだった。

 

「ところで○○、エヴァンゲリオンの漫画、まだ買ってる? 貞本義行の」

「いや、最近は追ってないよ」

 

早川は、山梨の人間では珍しく、漫画やアニメが好きだった。

山梨では漫画はまだ許されるかもしれないが、アニメを、特に深夜のものを見るような『オタク』であれば、格好の攻撃の的である。

すぐにクラスの中心人物から目を付けられ、吊し上げられるのだ。

 

早川はというと、そこのところを躱すのが上手かったのか、そういった種類の仲間だけ集まって好きにやっていたらしい。

 

元々社交的な人間だったからかもしれない。

 

俺はというと、高校ではクラスに一人だけいた『””絵””(想像の通りの絵です)を描くのが好きな女子』と一緒にされ、””””イジり””””の標的となっていた。

野球部の男とその彼女、そしてそのグループからである。

 

………

 

「東京ってすごいよなぁ? TOKYO MXが見放題なんだからさ」

「そうだね……」

 

変わってないみたいで安心したよ……

 

「ところでさ」

「え?」

 

急に神妙な顔つきになる早川。

 

「最近悩んでる事とか、ないか?」

「悩んでる事……?」

 

悩んでる事ねぇ……

 

「そりゃ、色々あるよ。これからの大学生活だって不安ばっかりだと思うよ。一人暮らしも初めてだしさ……」

 

それを聞いて頷く早川。

 

「そうだよなぁ。俺にも色々悩み事があったよ」

「……うん」

「でもさ」

「うん」

 

「『○○苑』で色々悩みを聞いてもらったら、楽になったんだよ」

 

「??」

 

??

 

え?

 

なんでそこで、俺の母親が通ってる宗教の名前が出るの?

 

「え?」

 

「だからさ、俺にも色々悩みがあったんだよ。実は俺、高校の時に不登校になってさ、ま、イジメ?ってやつかなぁ。うん。でも今思えば、そんなので悩むなんてバカみたいだけどさ、その時は死のうかな?って思ったんだよ。はは。でもさ、そこには俺と同じ悩みを抱えてる人がいっぱいいたわけ。そしたらさ、俺も楽になったというか、まぁそこで友達が増えて、奉公……あ、奉公って言うのはボランティアみたいなもんなんだけど、最初はそこの施設の草むしりみたいなものから始めるんだけどね。出会った友達とそうやって奉公してるとさ、頭が晴れて、悩んでたことなんて小さかったんだなぁって。楽になったら後は勉強だよね、大学の。大学の勉強もそこで会った友達と一緒にやった。だから大学にもちゃんと合格出来たんだなぁって感じだよ。総本山も立川にあるしさ、東京暮らしもそれで気が楽になったよ。それでさ、○○も一緒に」

 

「いや」

 

「そう? とりあえず行ってみるとか、いいと思うよ。最初は会費とかもかからないし、そうだね、近いのだと○○日に一般の人向けの会合が」

 

「行かない」

 

「……」

 

「……」

 

「まぁ、怪しいと思うかもしれないけど。みんないい人ばっかりだから。気が向いたら連絡してよ」

 

「うん」

 

それから何を話したか覚えてない。

 

………

 

「じゃあ、そろそろ帰るね」

「うん、またね」

 

玄関が閉まった後に、色んな事を思い出した。

 

早川と一緒に遊んだこと。

小学校の頃に、子供でもカートに乗って走れるカート場に遊びに行って、ゴーカートで競走したこと。

早川の広い家の中で、かくれんぼをして遊んだこと。

俺の家に泊まりに来て、夜中ずっとゲームをして遊んだこと。

 

俺の唯一の友達だった。

 

そんなのを思い出したら涙が出てきた。

 

「……うっ」

 

そのまま床に倒れ込む。

喉が下から圧迫されるような感覚がある。

鼻の付け根が熱い。

 

 

 

明日は入学式だった。

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