真理

スマホTwitterを見ながら台所でパーラメントを吸っていた。
煙に包まれながら、ふとあの日のことを思い出す。


―――――――


2013年3月。
俺は福岡は北九州市小倉北区にあるスーパーホテルの部屋にいた。

就職が決まり、俺は賃貸の部屋を探しに来ている。
隣から母親の声がする。

「アンタ、明日は不動産屋に行くんだから早く寝なさいよ」

俺が「福岡に就職が決まったから部屋を探しに行く」と言ったら。

「ついていく」

と言って聞かなかったからだ。

「ああ」とか「うう」とか適当に言ってはぐらかす。昔から口うるさいから、まともに喋ると疲れる。

いつしか母は遠い所を見るような目になり呟く。

「アンタもついに会社勤めなんだねぇ、中学で不登校になった時はちゃんと社会でやっていけるのか心配だったけど」

そうだね。
俺も同じように思ってるよ。

「なのに今度はアンタの弟が不登校になるなんてねぇ……」

俺は苦虫を噛みつぶしたような顔になる。

弟。
地元にある大学の1年生。
入学して1週間通った後、家に籠もりっきりになり、まともに外出すらしていない弟。
高校時代から、俺と同じように不登校になっていた弟。

「このままじゃ、大学も辞めなきゃいけないのかねぇ……?」

俺は一層、険しい顔になる。

弟は『田舎の空気』に耐えられなくなったんだと。
確信していた。

「ちゃんと○○苑の奉公にも誘ってるのにねぇ……」

それも生きづらくなる要因の1つである。
母親は新興宗教の熱心な信者。
家族がバラバラなのも、「信心が足りないから」と考えているフシがある。

俺は居ても立ってもいられない。

「あのさ」

「なに?」

「そういうのが不登校の原因なんじゃないかって俺は言いたいんだけど」

語気を強く。
母は「え?」と言うように、何を言っているのか分からないように俺を見る。

「どういうこと?」

「だから、実家から大学に通わせるのも、宗教の会合に連れ出すのも原因なんじゃないかって言ってんの」


母は、弟が大学を選ぶ時も「家から通えた方が家族も弟を支えられるし、お金も浮くし、弟にとって一番良い選択なんだよ」と言っていた。
宗教の会合に連れて行こうとするのも「弟がもっと信心深くなれば憂鬱な気分もなくなるし、万事良い方向に進むのに」という考えがあったからだ。

現実はそんなんじゃない事は、同じように不登校だった俺にもハッキリ分かった。

親元から離れて暮らすしたから、『家族の目』『近所の目』から離れられて気楽になったこと。
宗教の会合に行かなくなったから母親と『同じ種類』の人間に会わなくなって助かったこと。


「なんでそういうこと言うの! アタシはあの子の事を想ってやってるのに!!」

「だからそうじゃないんだって!」

言い合いになる。

俺はなんでこんな事をしているんだろう。
部屋を探しに来たのに。
俺の人生の方向が変わろうとしているのに。

「アイツだってそう思ってるハズだよ」

「アンタねぇ……」


そして俺はこの言葉を忘れない。


「アタシらの方が長く生きてんだよ!!
アンタなんかにはまだ分かんないような『正解』を、アタシらは知ってんだよ!
子供は黙ってそれに従ってればいいんだよ!!」


「…………」

そうですか。

分かりました。

いつだって、俺が考えることは正しくなくて、彼らの考える事の方が正しい。

そう決まっているのだから。


「わかった、俺が悪かったよ」

「わかりゃいいんだよ、わかりゃ」


俺は会話を終わらせ、目覚ましをセットするとすぐにベッドに潜る。

何も思うところはない。

はやく寝よう、明日は早朝から俺の新居を探しに行くのだから。

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