過ぎ去った日々を想う愚かさ

母親の作る料理がかなりマズかったのが判明したのは、俺が大学生になって間もなくの事だった。

高校生までは実家で暮らしていたので、毎日の食事は母親が作っており、俺はそれを毎日食べていた。大学に入ってからは東京で一人暮らしを始めたので、自分の意思に関係なく自炊をする事になったのである。

大学の帰り。近所の駅前に西友があったので、そこで『マルちゃん焼きそば』と鶏肉、あとはキャベツとかの野菜を買って帰った。

鶏肉を細切れにしてフライパンで炒める。あとは一口サイズに切った野菜をバラバラ入れて、若干しんなりしてきたら麺を投入して少しの水を加える。水が無くなってきたら粉末ソースを絡めて出来上がり。

皿に盛りつけた、なんの変哲もない焼きそばを眺める。あまり美味しそうではないが、ソースの匂いは食欲を刺激するし、初めての自炊にしては上出来である。

買ったばかりの真新しい箸で、麺と野菜を丁度いい割合になるように摘み、口に運んだ。

 

モニュ……

 

「え?」

 

え?

 

「……」

 

旨すぎる。

 

正直、衝撃だった。

 

今まで母親の作った料理しか食べてこなかったから、食べ物の味を過小評価していたんだなって思った。

昔、白菜と肉を醤油で煮た料理を食べさせられた事があったけど、白菜のエグみが強すぎて、食べる度に吐きそうになっていたことを思い出した。しかも結構な頻度で出てきた。1ヶ月に4回くらい。

あれで白菜が嫌いになったので、今でも白菜を美味しく食べることができない。

というか、この焼きそば……。『自分で作った』という補正をかけたとしても旨すぎる。

 

あんまりだ……って思った。

 

悲しくなってきた。

 

あんまりだよ。

 

 

でも、母親の作ったもので、唯一好きだった料理もあったよな。

 

ニチレイの『本格炒め炒飯』を解凍したのがさ。

 

美味しかったんだよな。

修学旅行1

高校生だった俺は、当時私立の高校に通っていた。

高校時代のことは、ほとんど思い出せない。というのも、2年生から3年生の途中までは、一切学校に通っていなかったからだ。

「卒業するには全然出席日数が足りない」と担任の教師が言うので、3年の夏休みの間はずっと図書館で教科書をノートに書き写すという作業をしていた。

その作業はというと……『歴史なら、教科書の文字を一字一句写経のように真っ白なノートに書き写す』『数学なら、教科書の図形をこれまたノートに寸分違わず書き写す』といった不毛なものだった。45分かけてノートを書き写し、休み時間を取り、また45分は別の科目の教科書を書き写す。

書き写す……書き写す……

そんな作業も、最初はキツいものだったが、人間とは凄いもので、次第に慣れてくるし脳も麻痺してくる。毎日同じことの繰り返し。教科書を見ては書き写す。

すると、同じ姿勢と長時間の筆記作業で鬱血したのか、右腕の肘の内側がだんだんと黒くなってきた。それだけにあきたらず、中指の所謂『ペンだこ』が出来る部分が力の入ったシャーペンの持ち方のせいか、クレーターみたいに潰れている。

家に帰って風呂に入りながら、次第に蝕まれていく俺の身体を眺めて「え? 俺、何やってんの?」と、急に我に返って泣いたりした。

 

そんなこととは特に関係なく……

 

3年の9月に、うちの学年では修学旅行があった。

大抵の高校では受験の関係もあってか、2年で修学旅行、というところが多いらしい。

俺の通っていた高校は私立だったし、進学のための勉強も一部の特進クラスで活発なだけであって、他の有象無象の生徒達は、進学よりも就職する方が総数としては多かった。

そういう背景もあったのか……は、俺の知るところではなかった。

 

というか、いつの間にかその修学旅行に参加していた。

 

 

――――――――

 

 

そんなわけで、俺は空港に向かうバスの中にいた。

 

「……」

 

ずっと不登校だった人間が、修学旅行のために普通に登校してきたのを見て、クラスの人間の反応は特に良くも悪くもなかった。

というかほとんど誰も、俺のことを気にしてないみたいだった。

「あ、そうなの?」

みたいな感じである。

その点ちょっとは楽になった気がした。

俺としては修学旅行に参加できさえすれば良かったから。

 

思い出作り……

 

そんな言葉が頭に浮かぶ

 

俺自身も、なぜ修学旅行にだけ参加しようと思ったのか分からない。

一度しかない高校時代に、普通の人なら様々な経験をする。その経験の機会を失うのがつらかったのかもしれない。

 

「おい、着いたぞ! 忘れ物しないように確認してから降りろ~!」

 

学年の担任が全員に聞こえるような声で叫ぶ。

空港に着いたようだ。

 

俺は誰も話す相手もいないのでしばらく無になっていると、航空機が到着したようで、搭乗券を受け取り、乗り込む。

 

乗り込んだ航空機は国際線……、つまり海外旅行である。

それもオーストラリアの『パース』への旅だった。

 

本当なら毎年の修学旅行は、『韓国』に行くはずだったのだが、今年に限り、日本と韓国の関係が悪くなったという理由で、旅行先がオーストラリアに変更になっていた。俺としては、どっちでもいいのだが。

 

今回の旅程は、日本~ケアンズへ飛行機で移動、その後1泊し、ケアンズ~パースへと、また飛行機で移動するという内容だった。パースにはうちの姉妹校がある。そこを訪問するのが名目上の目的である。

 

正直、旅行の内容に関してはほとんど覚えていない。色々な所に行ったというボンヤリとした記憶があるだけで、後は意識を失っていた。

 

断片的な記憶……

 

俺を乗せた航空機は、ケアンズへ着こうとしている……

 

 

―――――――

 

 

「うっ………」

 

航空機がケアンズ国際空港に着陸しようという刹那、強烈な違和感が襲って来た。

 

(うんちが漏れそうだ……!)

 

うんちが漏れそうだった。

 

こういう大事な時に、お腹がゆるくなってうんちが漏れそうになるのが俺の特徴である。

「……」

脂汗をかきがなら目を瞑り、腹の前で手を重ね合わせ、静かに天に祈る。

 

時間を―――

 

ゴゴン……

 

到着した。

 

「……!……!」

 

一刻も早く航空機から降りたいがため、前のクラスメイトの背後にピッタリとくっつきながら移動する。クラスメイトからは気持ち悪そうな目で見られている。

関係ないのだ。命がかかっていた。

搭乗橋を抜けると、俺は真っ先にトイレを目指す。

人目も憚らず駆け足である。

トイレの表示。

個室に辿り着いた。

ベルトを外す時間すら惜しい。

 

………

 

 

――――――――

 

 

「ほぉ~~~~……」

 

間に合った。俺は胸の前で再度、手を重ね合わせる。ありがとう。

 

「……」

 

とはいえ、まだ全部出し切ってはいないので、しばらくトイレに籠もることにする。

 

と。

 

「おい!! ○○!!!」

 

「ひっ……」

 

俺以外に誰もいないトイレの中に怒号が響いていきた。

 

「なにやってんだお前は!! 他の人間が待ってんだぞ!!!」

 

担任の教師の声だった。

うちの高校はガラの悪い生徒も多いので、ナメられないようにするためなのか、威圧的な教師も多かった。うちの担任もその一人である。

 

「す……すいません、お腹が痛くて……」

「チッ……便所程度で他人を待たせんな!! 早く出ろ!!」

 

そう言い残して担任は出ていった。

 

「……」

 

しーんと静まりかえるトイレの中。

 

少し落ち着いた俺は、さっきまでの出来事を頭で反芻する。

 

……

 

喉から熱いものがこみ上げてくる……

 

「ひっ……ひん……」

 

なんで?

 

俺が悪いから?

 

気づけば涙が流れていた。

 

俺が悪いんです……

 

ごめんなさい……

 

……

 

この顔の赤みが引くまで、もうちょっと時間がかかりそうだった。 

 

 

 

 

つづく

波打ち際に埋もれてた

かなしみの貝がら

ひろって歩いた日々は

もう

すててしまおう

飲み会

世間は夏休みみたいなので、仕事に行きたくなくなるような話をします。

 

――――――――

 

某日。

 

俺は会社の飲み会に参加した。

会社の飲み会と言っても小規模なもので、参加者は10人に満たない位だったと思う。会社全体ではなくて、俺が通う小さな現場の人間だけの、粛々とした飲み会になるはずだった。

 

「え、あの~……まだ仕事も半ばですが、とりあえずお疲れ様~」

 

所長が乾杯の合図をする。

全員が手に持ったビールを掲げ、カチーンと音がした。

 

飲み会は午後9時開始だった。正社員はもちろん、契約社員も混じっている。

そして問題は、その人らが全員40歳オーバーだということだった。

 

「………」

 

飲み会が始まると、賑やかに各々が談笑をし始める。1杯目のビールのグラスは早々に空けられ、ある人はもう一杯のビールを、またある人はレモンサワーを頼む。

俺はというと、隅の方で延々と焼酎の水割りを作っていた。

注文を店員に伝えたり、焼酎の水割りを無限に作り続けるのは、俺みたいに年齢の低い奴の仕事なのである。””””人生の先輩方””””(俺より入社年数が低くても飲み会では年齢が高いほど偉い)のグラスに常に注意を向け、残り5分の1ほどになったら「新しく、入れましょうか?」と声をかける。濃さも先輩の方々それぞれの『適量』を注ぎ込まなければならない。氷も足りなければ追加する。多すぎると怒られる。とにかく神経を尖らせる必要がある。

そんなことをやっていると「○○! ちゃんとメシ食ってるか! お前は呑めないんだからちゃんと食えよ! 呑み会ではなぁ……『呑めるなら呑め! 呑めなければ食え!』ってな!」なんて怒鳴られる。先輩方は年齢の所為なのか、出てくる料理にほとんど手を付けない。『残飯処理』も俺の仕事なのである……。

 

……

 

「○○! この会社で働いた年数はな、お前の方が長いかもしれんけどな? 生きてきた時間は俺の方が長いんだ。そういう人生の先輩からの忠告なんだけどな……」

 

飲み会も中盤に入ると、会話のネタが尽きてきたのか、俺の説教大会になる。先輩方は、若者に説教するのが大好きなのだ。

 

契約社員のおっさん(48歳。入社1年目)が続ける。

「確かにお前は酒も弱いしな、こういう呑み会は辛いかもしれん。でもな、こういう呑み会に参加してこそ、色んなことが話せるんだ。酒の力ってのは凄いもんでな。普段話せないことも、酒があれば話せるんだ。そういう場に参加することは凄く重要だと俺は思う。ここにいる先輩の話は仕事の参考にもなるだろ?……俺はな、仕事はな、確かにお前より出来ないかもしれん。でもな、こういう酒の場を盛り上げることは出来る。これが俺の仕事だと思ってる。こういう場を盛り上げることで普段の仕事も円滑にできるんだ……」

 

「はい」「はい」と、時折「そうですねぇ」を交えながら話を聞く。

この契約社員のおっさんからこの話を聞くのも、もう3回目である。飲み会の度に、同じ話を俺にしてくるのだ。

 

きつい……

 

と、噛み殺していた『あくび』が不意に出てしまう。

 

「は?」

 

契約社員のおっさんの目の色が変わった。

 

「お前、なに?」

「え、い、いや」

「俺の話が、あくびが出るほどつまらないんか?」

「そういうわけじゃ……」

 

「口答えすんな!」

 

頭を殴られる。

 

「……ッ」

 

「ちゃんと先輩の話は聞け」

 

「……すいません」

 

……

 

人の話を聞いてる時に、『あくび』は、”””絶対に”””してはいけないのである。

 

――――――――

 

酒の場はまだまだ続いている。

その喧噪の中、俺には心配事があった。

 

(終電が近いな……)

 

そう、終電である。

それも厄介な終電であった。

 

俺の住んでいるマンションの最寄り駅まで行く電車は、他の人達の電車よりも30分ほど早く出るのである。

というのも、俺以外の人達は、出張で来ているため近場にホテルを取ってあるか、そもそも近所に住んでいる人達だった。

 

このことに飲み会の中盤で気づいたため、「終電があるので帰ります!」と言い出しにくくなってしまった。

 

『他の人間が終電まで飲むつもりなのに、なんでお前だけ先に帰さなきゃいけないんだ?』

 

そう言われるのではないか、という恐怖が頭を掠める……。

 

「……!」「……!!」「!!……!!」

 

笑い声は、酒とタバコの煙の中に大きく響く。

俺の額に汗の粒が浮かぶ

 

「あの……」

「は?」

 

俺は、所長に勇気を出して伝える。

 

「あの、終電が近いので、お先に失礼したいのですが……」

「え?」

「すいませんが……」

 

耳が熱くなってくる。

 

「なんで?」

「いや、終電が近いので……帰れなくなるので……」

 

同じことを繰り返す俺。

 

「いや、終電はまだだろ。他の人達はまだ大丈夫だって言ってるぞ?」

所長が首を傾げる。

「その、自分の終電だけ、他の方達よりも早くてですね……」

俺は何を伝えたいのか、手を大きく動かす。

 

「お前さ」

 

俺の後ろから声がした。

この位置は、係長である。

 

「そんなのさ、『はい、お疲れ~』ってなると思ってるわけ? この場に水を差すようなことしてさ。 だったら最初から『終電が早いので、早めに失礼することになります。申し訳ありません』とか、もっと早くから言えただろ。何で終電間際になってさ、それを言うわけ?」

 

チクチク俺を攻撃してくる。

 

「す……すいません」

 

「そういう気持ちがあるんだったらさ、ココにいる全員に謝れよ。『申し訳ありませんでした』ってさ」

 

俺は周囲を見回す。

所長や係長、他の正社員や契約社員が全員、俺の方を無言で見ている。

視線が俺の身体に突き刺さってくる。

 

「はっ……」

 

息が苦しくなってくる。

 

「早くやれよ」

 

係長の責めるような声。

 

「………す…」

 

「………」

 

全員の視線は、まだ俺に突き刺さったまま。

俺の頭の中では、この凍り付いたような状況と、あと数分で来てしまう終電に対する焦燥感がグチャグチャに混ざり合っていく。

 

「………っ」

 

俺は。

 

「あ! おい!」

 

自分の分の飲み代(4000円)をテーブルに叩きつけ、店を飛び出していた。

 

ハッ……

 

ハッ……

 

もうすぐ駅だ。

 

終電まであと2分……。

 

「待てやコラァ!!!!!!!」

「……ッッア゛ッ!」

 

背中に衝撃がある。

蹴られた?

 

後ろを振り返ると、契約社員のおっさんが立っていた。

俺の4000円を握りしめて。

 

「お前バカにしてんのか!? 俺らを!!」

「………」

「こんな金受け取れるか!!」

「………」

「オラ……手を出せや!」

「………」

「手ぇ出せつってんだろ!!!!!」

「……す、すいません」

「スイマセンじゃねえだろ、こんな金受け取れねぇつってんだろ!」

「………」

「受け取れねぇならこうした方がマシだ!!」

 

おっさんは目の前で4000円を破り捨てた。

 

「………」

「なんでこんなことをした」

「………」

涙が流れてくる。止められない。

「………」

 

パンっっ!!!!!

 

「………ッ!」

 

俺の顔が横に吹っ飛んだ。

張り手をされたのだ。

 

「帰れよ」

「……す…」

「帰れっつってんだろ!!! 終電があるんだろ!!!!」

 

………

 

俺は背中に契約社員のおっさんの刺さるような視線を感じながら、駅に向かって歩き出す。

 

「……」

 

終電は逃しました。

 

 

 

おわり

国立

国立駅周辺にはゲームセンターが無かった。

 

当時大学生だった俺は『クイズマジックアカデミー』に嵌っていて、国立駅の近くに住んでいながら、数駅離れた国分寺駅から少し距離のある『ゲームシティ国分寺南店』にまで通っていたのだった。

 

(なんとかして……国立駅周辺のゲームセンターを見つけたいなぁ……)

 

そんな気持ちばかりが積もっていく。

インターネットで調べても、国立駅の周辺にはゲームセンターらしき物は無い。俺の調べが足りないだけなのかもしれなかったが、僅かな情報すら入ってこないのである。

 

谷保駅

 

国立駅からそこそこの距離があるのだが、南口を大学通りに向けて真っ直ぐ進み、ひたすら真っ直ぐ真っ直ぐ行くと谷保駅に着く。

インターネットで調べたところ、そこにゲームセンター(らしきもの)があるらしかった。

 

「行ってみるか~……」

 

とても普段通いができそうな距離ではなかったが、行ったことのある範囲を広げてみるのも良いかなと思ったのだった。

 

――――――――

 

「はっ……はっ……」

 

汗がうなじから背中に流れズボンに染みついていく。

腕に丸い水滴が無数に噴き出してくる。

 

季節は夏。時間は夕方。

自転車で谷保駅を目指す最中である。

 

知り合いから譲って貰った自転車なのだが、チェーンが錆び付いているし、変速機構もない。安いママチャリだった。

 

「は……は……えぇ……」

 

自転車の性能は関係ない。俺の体力の問題である。

 

一橋大学の無駄にデカい敷地を横目に抜け、緑に囲まれた桐朋学園が右手に見えてくるといった位置。もうこの時点でバテかかっている。

 

(こんなんじゃ、やっぱ通うのは無理だわ……)

 

後悔が、心の底から湧いてくる。

とはいえゲームセンターを目指してしまったのだから、目的地が見えるまで足を止めるわけには行かない。完全な無駄足になってしまうのは避けたかった。

というか、地図ではそんなに遠くないように感じたのに駅から桐朋学園に着くまでが、えらく長く、永遠と続いていたような気がする。

ひたすら直線が続いていたからだろうか……。

 

そんなこんなで進んでいくと、辺りが暗くなり始めてきた。

 

「『逢魔が時』ってやつだな……ヒヒッ」

 

最近覚えたばかりの単語を口に出したくなる。

オタクの悪い癖である。

 

気温もだんだんと下がり、足も割とスムーズに動くようになってきた。そして……

 

「着いた~~~~~~ん」

 

JR南部線 谷保駅である。

 

「って小さいな!!」

 

それもそうで、国立駅の5分の1も無いような大きさの駅である。普段、国立駅ばかり目にしている俺の率直な感想だった。

そんな無駄なことを考えている場合じゃない。お目当てのゲームセンターを探さないといけないのだ。辺りをウロウロし始める。

 

しかし、探せど探せど目当てのゲームセンターを見つけることが出来ない……。

 

このまま何も無いまま、来た道を戻らないといけないのだろうか……。

そう思いかけていた俺だったが、たまたま通りかかった細い道路の傍らに、それはあった。

 

「え?」

 

窓から店内の様子が見える。

メダルスロットと、時代遅れのクレーンゲームが申し訳程度に置かれている。

とてもゲームセンターと呼べるようなものではなかった。

 

「………」

 

俺の首から、涙のような汗がひとつぶ、地面にこぼれ落ちた。

 

――――――――

 

真っ暗な帰り道、自転車を手で押しながら歩いている。

結局は無駄足だった。

 

(まあ、良い経験だよ)

(それに、来たことない場所にも来られただろ?)

 

ポジティブに考えようとする。

 

「腹減ったな……」

 

谷保駅へ向かう途中に何件かラーメン屋があるのが見えていた。

俺は『国立飯店(だったと思う)』と書かれた赤い暖簾をくぐる。

 

「もやしそばください」

 

もやしそばが出てきた。

旨いのか不味いのかわからなかった。

 

帰りに大学通りを自転車で走っていると。突然、

 

「おい!止まれ!」

 

「!??!?」

 

知らないオッサンが目の前に立ち塞がってきた!!

 

「おわあああああ!!!!!」急ブレーキをかけながら叫ぶ俺。

「おい!」オッサンは何事も無かったかのように続ける。

心臓かドキドキしている。

「はっ!はっ!……えぇ??!な、なん」

「お前! ここの人間じゃないだろ!!」

「????」

 

訳が分からなかった。首を傾げる俺。

 

「ここね! 分かってる? 逆なんだよ通路が!」

「??」

 

そこで気がついた。

大学通りの自転車用通路は『一方通行』だった。

俺の通ってきた通路は、2車線の車道を挟んで『右側』。これは、国立駅方面から来る自転車だけが通れる道だったのである。

左側が谷保駅からの自転車が通る通路だった。

 

「あ、あ、す、すいません」

「全く……若い奴らはコレだから……大学に入りたてのヤツが良くやるんだよ、こういう事をさぁ!」

「……すいません」

「すいません、じゃないんだよお前は。前から来る自転車とぶつかったらどうする? 秩序を守るんだよ秩序を。ルール。分かる?」

「……すいません」

「俺はずっと昔から国立に住んでるけど、最近の若い奴……特に学生がなぁ…………」

 

…………

 

それから10分程度、ずっと説教をされていた。

 

説教するのは良いんだけど、自転車用通路でやるもんだから、俺の後ろから来る自転車が立ち往生して、迷惑そうな顔をしていた。俺は、何とか端に避けて後ろからの自転車を通そうとしたけど、オッサンの説教はなおも無限に続いた。

 

とほほ~~~~~(ToT)

 

それから自宅へ帰る途中に腹が痛くなったので、国立駅のトイレを借りたら液体みたいなウンチが無限に出てきた。

 

もやしそばの所為だ、と思った。

 

 

おわり

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